辺綱に出会う


さて、続いては渡辺綱と出会う話です。
茨木童子の話の中で一番有名なのは彼との話しだと思われます。
また文字や芸能にあらわれるのもこのお話です。

もっとも古い話は『平家物語・劔巻』に載っている綱と鬼との対決の話ですが、この時はまだ茨木童子という名前は与えられていませんでした。
場所は一条戻り橋。相手は嫉妬に狂い鬼になった女。と相違点があります。
ただこれが元になったのは間違いありません。
話の筋がほぼ同じだからです。

『太平記』では場所が大和国宇多郡の森(現在の京都府京都市左京区宇多野)。相手が反化の物。
つまり化け物です。
相手が鬼でなくなってしまいました。

『前太平記』で初めて茨木童子という名前が登場しています。
ここでは場所が羅生門。相手が茨木童子という形になっています。
大江山の首領、酒呑童子の腹心の眷属という位置づけです。
酒呑童子が倒された後、羅生門に住み着いて人に害する茨木童子。
その存在を信じていない綱が、真偽のほどを確かめにいく、そういう話出しです。
戻り橋から羅生門へ場所を移動したのは『今昔物語・巻二十四・玄象琵琶為鬼被取語』などで羅生門の方が当時の人にとって鬼の住処にふさわしいと考えられたのでしょう。

これ以後場所は変わっても、綱の相手は茨木童子と固定されました。
おそらく固有名がついたおかげだと思われます。

彼の性別についてですが。
元は「鬼」というイメージは性別がなかったと考えられます。
しかしわざわざ鬼女とし、それが元になっているのだから女だったはずです。
鬼女だから美女にばけることもそう気にする点ではありません。
しかし何故か男のイメージ。
出生譚でも男の子です。
何故か。
一つに、『太平記』の影響があると考えられます
『太平記』では女に化けるが綱だったりするんです。
そして、女の嫉妬から鬼に変貌する、いわゆる般若のイメージが時代をくだり鬼から離れていったのではないでしょうか。
鬼は鬼。般若は般若。
鬼は荒々しく強い。つまり男だ!!
ってな具合です。
歌舞伎の戻橋など一部では鬼女の扱いもありますが、一般的には「彼」になると思われます。



[参考]一条戻り橋↓
三善清行蘇生の話や安倍晴明が自身の式神を封印したという伝説がある橋。この地域に住む人たちは嫁入りの時、出「戻」ってはいけないからとこの橋を通らないらしい。

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