伽草子



御伽草子の中で酒呑童子が語ってくれました。

「春あった出来事なんだが。俺の部下の茨木童子に都まで使いを頼んだんだよ。
そしたら七条堀川で渡辺綱に出会ったらしいんだ。茨木の奴用心して女の姿で近づいて連れて来ようとしたまではよかったんだが…
刀で腕を切り落とされたんだ。まぁなんとか策をめぐらして取り返し、今はなんともないようだ。
こんなことがあったから煩わしくて都には行かないんだよ」

以上酒呑童子さんでした






「過ぎる春の事なるに、それがしが召し使う茨木童子という鬼を、都へ使いに上らせし時、七条の堀川にてかの綱に渡りあふ。
茨木やがて心得て女の姿に様を変え、綱があたりに立ち寄り、もとどりをむずと取り、つかんで来んとせしところを、綱此よしと見るよりも、三寸五尺するりと抜き、茨木が片腕を水をもたまらず打ち落とす。
やうやう武略をめぐらして、腕を取返し今は子細も候はず、きやつばらがむつかしさに、われは都に行くことなし」
(岩波 古典文学大系38 「御伽草子『酒呑童子』」)


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